コインハイブ事件備忘録

 

 コインハイブ事件の備忘録

 

 コインハイブ事件を担当した平野弁護士の手記が出ていた

 

コインハイブ事件における弁護活動 - Google ドキュメント

 

 結論は逆転無罪で、こちらでも書いたが。

 興味深いものとしてあげておく

 

penginsengen.hatenablog.com

 

 さて、しかし残された課題も多いだろう

 公表された判決文はこちら

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/869/090869_hanrei.pdf

令和2年(あ)第457号 不正指令電磁的記録保管被告事件
令和4年1月20日 第一小法廷判決

 

 まずよくある法令の明確性違反は冒頭で次のように却下されている

 「弁護人平野敬の上告趣意のうち,刑法168条の2第1項にいう「人が電子計算
機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず,又はその意図に反する動
作をさせるべき不正な指令」の文言が漠然不明確であるとして憲法21条1項,3
1条違反をいう点は,同文言が不明確であるとはいえないから,前提を欠き,その
余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主
張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。」

 

 が

 

 結論として

 「以上のとおり,本件プログラムコードは,反意図性は認められるが,不正性
は認められないため,不正指令電磁的記録とは認められない」と刑法168条の2第1項の構成要件を満たさないため、「原判決(高裁判決)を破棄することとし,上記の検
討によれば,本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を否定して被告人
を無罪とした第1審判決(地裁判決)は是認することができ」(()内はブログ主加筆)としている。

 

 その為、「反意図性」と「不正性」この二つの要件が重要であり、どのようなケースでこれらが認められ、あるいは認められないか、これが重要となる。

 

 今回の判決である程度の明確化は図られたが、日々変動するソフトウェアをこの二つの視点から観察が必要であり、要注意である。

 

 最高裁によると

 「反意図性」は

 「反意図性は,当該プログラムの機能について一般に認識すべきと考えられる
ところを基準とした上で,一般の使用者の意思に反しないものと評価できるかとい
う観点から規範的に判断すべきであり,一般の使用者が事前に機能を認識した上で
実行することが予定されていないプログラムについては,その機能の内容そのもの
を踏まえ,一般の使用者が機能を認識しないまま当該プログラムを使用することを
許容していないと規範的に評価できる場合に反意図性を肯定すべきである。」

 

 とされている。

 

 結局よくわからないということとなるが

 「当該プログラムの機能について一般に認識すべきと考えられる
ところを基準とした上」とあるので・・・一般に認識すべきと考えられるということを裁判官に理解していただく必要性があるといえる。どうやってだろうか。

 難しー。

 次に

 「一般の使用者の意思に反しないものと評価できるかとい
う観点から規範的に判断すべき」

 ということで、また非常に評価が難しい概念が登場している。

 

 それで、認識出来ないかたちのプログラムについては

 「一般の使用者が事前に機能を認識した上で、実行することが予定されていないプログラムについては,その機能の内容そのものを踏まえ,一般の使用者が機能を認識しないまま当該プログラムを使用することを許容していないと規範的に評価できる場合に反意図性を肯定すべきである。」

 ということで、「一般の使用者が機能を認識しないまま当該プログラムを使用することを許容していないと規範的に評価」出来るか否かが重要とのこと、やはり漠然としているといえる。

 

 それはともかく次に

 不正性については

 「不正性は,反意図性のあるプログラムであっても,使用者として想定される
者における当該プログラムを使用すること自体に関する利害得失や,使用者に生じ
得る不利益に対する注意喚起の有無などを考慮した場合,プログラムに対する信頼
保護や電子計算機による適正な情報処理という観点からみて,社会的に許容される
ことがあるので,そのような場合を規制の対象から除外する趣旨の要件である。」

 

 ということで反意図性が認定されても、「社会的に許容される
ことがあるので,そのような場合を規制の対象から除外する趣旨の要件である。」とされる。

 要は反意図性があってもすべて引っかからないようにしている要件だということだ。

 

 コインハイブはこちらで救われている。

 

 しかし、保護法益は社会であるので、後段は当然として「反意図性のあるプログラムであっても,使用者として想定される者における当該プログラムを使用すること自体に関する利害得失や,使用者に生じ得る不利益に対する注意喚起の有無などを考慮した場合」というここが重要だろう。

 判断要素は、「プログラム使用者の利害得失」、「不利益の注意喚起」が総合的に判断されるようだ。

 不利益ゼロなら問題ないということだろうか。または同意してということだろうが、反意図性との関係でよくわからないところでもある。使用者にダメージを与えるもの及び不利益が示されていないものはNGとなるだろう。

 

 

 これはそのうちクッキーのように画面に注意喚起だらけになるかもという懸念がある。

 不利益は表示していた、不利益の範囲は小さいといえるため、及びリスク管理として念のためという事になるだろう。

 

 うーん・・・。勿論度が過ぎれば注意喚起していても不正性は認められるだろう。あなたのPCを乗っ取ります→YES!!というプログラムは、さすがに不正性無し(使用者の同意があったからOK)とはならないだろう。そのあたりで、「プログラム使用者の利害得失」と注意喚起の有無などを「考慮」ということだろう。

 要は最後は総合判断ということだろう。「など」というのもポイント。

 

 実務的には、回避方法として注意喚起をうるさいぐらい出しておけ、(これは反意図性にも絡むだろうし)ということとなるのではと思う。

 

 これはこれでどうかという所だが、それしかないような気がする・・・。