下記を読んでいる
有名だが、今まで読んでこなかった。全体的に読みやすい語り口で良かった。
経営を考える上では、第3部の「私の経営哲学」がタイトル通り小倉氏の経営哲学を知ることができて良い。もっとも、その前の第1部と第2部があってこそ、ここでの意味がわかるわけで全体通読は必要だろう。
やはりなんだかんだで、全体を占めるものはマネジメント、もといい、人の話が多いという印象。
特に印象は結局「人柄」評価。それも今でいう360°評価というべきか、「下からの評価」と「横からの評価」を考えられた点。
実績ではなく、「誠実であるか、裏表がないか、利己主義ではなく助け合いの気持ちがあるか、思いやりの気持ちがあるかなど、人柄に関する項目に点を付ける」(P.270)という点である。
ちなみに各評価者の上と下を切って平均で人柄をみるそうだ。
今もヤマト運輸(ヤマト運輸ホールディングス)では行われているのだろうか?
昨今実績を上げるための不正が流行っている。どこもかしこも不正ばかり。
そういえば郵便も配達せずに隠す系はたまにニュースにもなる
仕事ができないと思われるのが嫌だったそうだ。
他にも結構な高齢でも…
こんなまとめも
ヤマトさんや佐川さんはないのだろうか。
この辺は郵便とは違うのかもしれないが、車関係の不正しかり、会計不正しかり、いずれもシュリンクしてゆく中で、無理矢理実績をだそうとするからこうなるのだろう…。
そういう意味で人柄評価は良い不正防止になるだろう。
勿論単に甘いだけではない。
「全員経営」(p.56等本書内で多く使われる)、「サービスが先、利益は後」、「車が先、荷物は後」、「安全第一、営業第二」(いずれも第7章の小節であり、モットーともされる)といいながらもしっかりそろばんをはじいているところが垣間見える。そこからの経営者は論理的であること、政治家を頼らないなどのこともでるのだろう。
これらのスローガンも非常に重要であり、安定経営に必要な要素だろう。
昨今のコストダウン経営とは別視点で、人件費が増えてもしっかり社員を雇うこと「社員が先、荷物が後」(pp.139-142)や、あえてコストのかかる長距離電話をセールスドライバーにOK(p.134)する話など、コストダウンしか考えていない昨今の風潮への良い戒めもあるといえる。
アメーバー経営ではないが、「全員経営」をこれだけ大きな(グループで20万人超え)の中でできているのか興味深いが、少なくとも「うちではとても・・・」という経営者には良い反論になるだろう。
「キーワードはコミュニケーションである」(p.190)と指摘しているよう、結局人柄重視で後はもコミュニケーションをしっかりすること、そこが重要だろう。「やる気のある社員集団」(pp.189-192)では中間管理職や社歴の長い人間がやる気を阻害しがちなので注意することも書かれている。ラインが幾重にもわたるのでコミュニケーションは難しい。「サービスが先、利益は後」のような明瞭な言葉で伝える必要性を説いている。
最後、「企業は金太郎飴のようでなくてはならない」と最近の多様性重視とは一見真逆の主張がある。
しかし、これも金太郎飴のような誰もが一緒、ということではなく、外に見せる顔、メッセージは同じでなくてはならないという、メッセージの一貫性を説いているものと思って差し支えないだろう。
「いつも簡潔に筋の通った話をする訓練が大事」(p.192)は私にとっては手痛い指摘だが(学者風にぐだぐだ言いがち)、もっともであり、コミュニケーションの明確性と一貫性=信頼性、という観点からも心がけてゆきたいところである。
結局まとめてゆくと、お馴染みの下記
まず適切な人をバスに乗せる(=誠実な人を評価する)
そして結局ビジョンを持って、全員経営で(社長だけが目立つのではなく)、外部に明確なメッセージを発してゆく…
という、米国での有名トレンド
(ただし、ビジョナリー・カンパニーの研究には実証的には否定も多いので注意は必要だが)
とある程度一致してくるといえる。
加えて、第9章 「全員経営」はアメリカとの比較もしながら非常に優れた分析がなされている部分といえる。幅広く様々な業種ではなく1企業の話だからこそここまで細かい話ができるのだろう(他の自伝的部分も同じ)。
他の業種でも物流ではないからといわずに、運転手をセールスドライバー(SD)へ寿司職人のようにしたように、発想の転換で、こういうこともできるのでは無いかと思う。
(小倉氏は謙虚に物流は全員経営がしやすいからと何度も書いてはいるが)
私も長らく手に取っていなかったが、一読の価値があると思われるので、米国中心の経営学も良いがこういうものも一度読むことをおすすめしたい。