素晴らしい1冊

 先日ようやく読み終わりました↓

 500ページこえの専門書ですが、比較的すらすら読めました。

 論文ごと分かれているので、一つ一つ読んでいけるので読みやすいといえます。

 

 奥山先生の各章ごとのまとめと最後の訳者解説が秀逸。グレイぽい三位一体論を使いながら、非常に全体をよくまとめている。各章の解説と最後の訳者解説を読むだけでも大部勉強になる。

 

エリートでも何でも無い、私が読む価値は???だったかもしれないが、様々な面で勉強にはなった。

 地政学とは?という方には、素晴らしい本であるので、是非この一冊を薦めたい。下手な、「なんちゃって本」を数冊読むよりもこの一冊を読んだ方が良くわかると思う。

 

 脱線だが結局腰を据えてしっかり読まないと何も身につかないし、思考力の強化にもならないといえる。経済数学だが、下の石川先生の説明はまさにその通りといえる。

 ちまたの「すぐわかる」とか「数時間でわかる」系では何も身につきません。

 

www.youtube.com

 経済数学もそうだが、ウクライナとか話題だし、日本の安全保障が…と聞くからと、○○のすぐわかる△△等々や、どこぞの陰謀論系のところで勉強しても結局全く意味は無いといえる。 

 

 勿論、この一冊で完璧ということはないし、関係する歴史的事実などは押さえていないとわかりにくいところも多いだろう。

 例えば、スペースパワー関係は訳者も言及通り、技術的に難しい部分が多いし、ニコラス・ロジャーのところは海図がないので半分も理解できていないし、土地勘というか歴史感覚もないところだったのでなおさら厳しかった。ロシアの章もなんか眠くなった感じ。

 一方、グレイなど(主著「現代の戦略」は翻訳を読書済み)ある程度なじみのある論者はわかったつもりかもしれないが比較的読みやすかった。マハン関係やハウスホーファーのところもそれぞれ多少の前提知識(前者ちんぷんかんぷんでも主著の日本語訳は読んだことあり)があったので楽しく読めた。批判的地政学も批判理論はそれなりに読んだことあったのでまずまず。

 全体的に、やはり知っていることしか学習できないなぁというところ。独学がよろしくないのもそういうところだろう(知っているところばかり学習してしまうことによる偏り)。自分もやはり勉強ものはしっかりしたところでやらないと陰謀論系やトンチンカン系になるなぁ~と改めて確認。

 どこか、勉強できるところいった方が良いかも?

 日本クラウゼヴィッツ学会当りだろうか?

 日本クラウゼヴィッツ学会 (clausewitz-jp.com)

 

www.clausewitz-jp.com

 

 ここからは本書から外れて…。

 

 なお、経済学でいう、実証と規範に関しての議論と同じことが訳者解説で詳しくされていたのが印象的。経済学では実際にこうなっているということを「実証的」、こうすべきということを「規範的」というような分け方をする。

 ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツが物騒なネタで簡単にこれを説明していたが、丁度それを思い出す。この物騒なネタを簡単にまとめると『「軍事の専門家にこの核弾頭を使ったらどれだけの都市が消し飛んで、どれだけの人が死ぬか」これは大凡答えられるだろう。これは実証的な問いだ。一方では、「この核兵器を使うかどうか」となると、「使うべきだ」という専門家も「使うべきでない」という専門家もいるだろう。これはべき論で規範的な問いである。』という説明だ。アメリカだから通用するネタだろうが、確かに対日戦でも原爆投下は正当だという人もいるので、こういうこととなるだろう。

 「こうなる(なっている)」という事実の問題と、「こうすべき」という主張は分けて考えましょうということと同時に、事実は一致するはずだが、こうすべきというところは専門家でも意見が分かれるという、そういうことをわかりやすく解説してくれるたとえといえる(物騒すぎるが)。

 結論としては、良い経済理論は実証的でありかつ、規範的内容が伴ってる(「こうなっている」と「こうすべき」が見事に融合している)といえる。規範的内容を主張するために、実証的であるともいえるか。

 詳細はスティグリッツを読んで欲しい。

 確か下記のどちらかまたはどちらにも同じような話があったはず

 マンキューにも、この辺かなりしっかりと実証と規範を分けること、演習問題にも、その辺があったはず(ミクロの方は確か演習にもあったはずで間違いないかと)

 

 それ以外の基礎テキストにも大概あるかなと思われる。

 

 

 この辺の話と同じような議論があって、目的志向が強い奥山解説と感じた。

 ちなみに経済学では「実証」重視で、「こうなっている」を徹底的に研究するものや、規範論を脇に置くことも多いので、そこは地政学とは違うなぁと感じた(経済学の規範無き経済学は科学的である一方、問題も多く指摘されているが・・・)。

 勿論、実証重視の経済学(の一部)とて、解説でいう「狙い」から逃れられるわけではない(自然科学と同じように)。もといいここでいう「狙い」とはリサーチクエスションともいえるので、これがない研究はあり得ないともいえるが。

 

 なお、経済学と地政学はある意味で融合(ロシアの部分では限定的に言及あり)しつつあり、地理は経済にも確実に影響しつつ(ただし、繁栄の地理説は猛烈な反論があり、地理が決定的では無いことも確か。そのあたりも地政学での「地理のみが全てを決定するわけではない」ということと同じ)、軍事・政治の基礎ともなる。経済・軍事・政治は地理という逃れられないフィールドの上で、三位一体で展開されるものといえるのだ。そういう意味で、戦時経済や、地理経済と地政学との融合的論文(経済学者の論文)が入っていなかったのは残念といえば残念。あとなんだかんだで政治学も。

 トーマス・シェリングノーベル経済学賞受賞)のような軍事に関してのゲーム理論系の国際関係論学者も多い。そこと地政学との連携は十分できると思われるので(まさに地理はチェスの「盤」であり、チェス上でのゲームを論ずる際にその「盤」も論じても良いはずだ。「盤」次第でゲームが変わるというのは例えばテニスのコートが何コートかで得意と不得意があるなど、そういうものもあるし、単純にプレーする環境としてというところもある。)そういうものも期待したい。

 かつて心理学系でサンプルの偏り(白人系の高学歴者ばかりサンプリングされていた)が問題となったが、同じように「場」のかたよりも、問題視されうるだろうし、本当にどこででも当てはまる普遍的な理論、内容はあるのか、それも地理は問うているように思う。

 科学的なゲーム理論も同じ。どの「場」でゲームを行うかで変化は生じないのか。変化するとするならばそれは地理とどのように関係するのか、特に政治と経済、そして軍事においての地理は?ということで、この辺を経済学的にも解明していくようなものがあるとさらに面白かった気がする。無い物ねだりだが…。勿論、科学的・普遍的なものを探求しているので、地理による変化はないはずというのも一つだろう。だが、地理からは逃れられない以上、少なくとも軍事・経済・政治と地理を関係させた、地政学&経済学的(+政治学社会学)アプローチは十分面白いのではと思う。

 

 と駄文を書き連ねてしまった。

 

 無いものねだりはともかく、非常に良い1冊で刺激的な内容である。

 

 さて、次は、大国の悲劇だな… これも分厚い・・・