もう一度まとめて AI著作権

 もう一度まとめよう

 

 

旧政府見解

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/dai6/siryou4.pdf

内閣府知的財産戦略推進事務局「AIに関して残された論点(討議用)」平成29年2月28日 p.2

 

 これが一度登場した重要な絵柄だ

 端的には上段と下段で取り扱いが異なり、下段・すなわちAI創作物には著作物性が無いというある種妥当な結論である。が…、勿論問題は火を見るより明らか。

 そもそも両者の境界線は不鮮明であるし、道具として使ったかどうかどのように判断するか。また道具として使ったとして、どうやってその道具として使った一を特定するか・・・

 これは政府自体も勿論分かっていた。

 だが・・・

 日本政府:いったん2017年で方向性を提示したものの2019年の、今後の発展性により再検討と事実上先送り。現状では2017年の提示内容により、人による創作的関与がないAIによる完全自律作品(AI創作物)に関しては著作権付与はなし。ただし、非著作物としてもそのものの権利帰属については結論無し。

 

 そして、どうもそのままとまっているようだ。

 

 一方・・・

u国際的動き:2019年AIPPI国際総会(ロンドン)で「人工知能の生成に関する著作権」が主要な議題となったものの方向性を定めることが出来ず、国際的合意をなすことが出来なかった。

 という具合だ。

 

u技術的発展速度が速いものを法規制することはなじまないという側面もあり。

u事例:スティーブン・タラ-氏が世界各地で「AIの権利取得の試み」を実施。特許権について「オーストラリアでは、AIが考案した発明に関する特許申請においてAIを発明者と認めることができる可能性があると裁判所が判断し、南アフリカでは実際に特許も認められた」との報道もあるが、主要国では全て発明者が人間でないことから権利は認められず。同じくAIによるアート作品についても裁判にて争っているが米著作権局(USCO)は2019年、2021年と立て続けに著作物性を否定している。

https://jp.techcrunch.com/2022/02/24/us-officials-say-art-created-by-ai-cannot-be-copyrighted/?2&guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly90LmNvLw&guce_referrer_sig=AQAAANqc8YYQrMRwT-7KrkEYhZS_0EzXPrQpns7NK5NXz7tzvEybYq3i-fLy9ItLZylehxvgeSsdlH85YrQQZz8ixe5OIdsn9RKhey-grxNUpOoOWHV6VlEaPu46O8_DAnuONoJvMckOXaoF0qC93LA-cJZms_Q825f1wwJavH1knygi

等報道多数

アメリ著作権局による最新の文章は2022年2月14日の登録拒絶再審査要求の2回目に対しての返答(登録拒絶判断を支持)

https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf

 

 等々という状況

 

 何故AI生成物の帰属が問題であるか?というと

 

☆AI生成物の帰属が決まらない=当該知的財産を誰が所有しているかが決まらない=所有者不在(不明)=経済学的には取引費用が非常に高くなる恐れがある

 

☆そもそもAI自律生成に著作権を認めない事は問題ではないか。人が無理矢理関与しましたという事実を作ること自体余計な手間をかけるのみでかつ、結局創作的関与をした者は誰かという、帰属問題は再発する。

 

☆またインセンティブ論的にAI使用、特に自律型に近いものほど使用を避けようというインセンティブが発生しかねず、自律型が一概によいとはいえないものの、AI技術の方向性を誘導してしまうことは望ましいとは考えがたいのではないか。

 

 このあたりにまとめることができると思われる。

 

 至極簡単にまとめて権利帰属のさせ方をまとめると次のようになり、それぞれデメリッドも大きいことが分かる

 

番号

方法

インセンティブ評価

補足

AIに帰属させる場合

AI自身に(現状のところ)インセンティブ無し

インセンティブ論的には評価できない

AI全体交えた法改正議論が必要

AIを作成したプログラマーと企業に帰属

AI作成者にはインセンティブが生ずるが、ユーザーがAI使用を回避することが想定され、結果として評価は難しい

GitHub Copilotへの反応

ユーザーに帰属

適しているが、コピーライトトロール的なAIによる大量の創作物生成とそれに少しでも類似している場合に濫訴が起こる可能性あり。注意した制度設計が必要

オリンピックのエンブレム騒動

パブリックドメイン(帰属無し)

AIを用いると著作権が得られないこととなり、インセンティブ論的には評価できない。またその後の取引費用も注意

著作権不要論による議論も参考

柔軟に帰属させるA

枢要な行為者へ

最適だが、判断がケースバイケースになり難しく、紛争も起こりやすくなる。

ある意味判例法任せ

柔軟に帰属させるB

創作者へ

同上かつ、法的には最も忠実な考え方。帰属の方法現行通り。しかしAI時代に必ずしも適合しているかは不明

著作権法には忠実

関係者が共同権利者

権利関係の複雑化、必ずしも交友関係の無い権利者が増えることによってインセンティブ論的には評価できない。取引費用も飛躍的に増大。

共同権利の難しさ

 

 その上で再考すると

☆米著作権局(USCO)及び日本の知的財産推進計画通り、人間の創作的関与が認められないものは原則論として著作権は認めがたい。

☆懸念:法律論としては創作性で考えることが最も妥当。しかし、それではインセンティブ論で見たようにAIの使用を妨げないか、またはAIの発展性の方向性を限定しないかについて懸念がある。

 

 結局どう見ても痛し痒し・・・

 

 ではどうするか検討するには様々な分析が必要。

 ちなみにこういうときの分析手法は大きく分けて次の3つの方法があると考えられる。

 

☆このような法律問題、特に著作権についての検討も様々な手法が存在する。例えば

☆例えば、林紘一郎,田中辰雄(2008)『著作権保護期間 延長は文化を振興するか?』(勁草書房)収蔵 ポール・J・ヒール土著 今村哲也・宮川大介訳「保護期間延長は社会厚生を高めたか:アメリカの場合」(同上pp.111-146)は、1913年から1932年までに発行されたベストセラー小説を調査し、創作的作品の低利用を防ぐために著作権法が現時点で必要であるとする仮設を回帰式を用いて検討している。結論は、少なくとも、著作権法は創作的作品の低利用を防ぐ効果は乏しいとなっている。【回帰式を使った分析例】

uEberhard Feess・Marc Scheufen(2016)「Academic copyright in the publishing game: a contest perspective」European Journal of Law and Economics. (European Journal of Law and Economics, 1 October 2016, 42(2):263-294)はオープンアクセス体制についてゲーム理論を用いた分析をしている。【ゲーム理論を用いた分析例】

u柳川隆・高橋裕大内伸哉編(2014)「エコノリーガル・スタディーズのすすめ」(有斐閣)はエコノリーガル・スタディーズと称する法律学と経済学両面の思考を用いた複眼的手法により様々な分析を行っており、pp.31-54において所有権及び知的財産権(うち著作権含む)を取り上げている 【記述的分析例】

 

 ・回帰式をを用いた統計学的な分析方法

 ・ゲーム理論を用いた分析方法

 ・記述的分析

 

 とそれぞれ著作権法を分析する上でもツールがある。

 

 

 この辺は誰か上手くやってくれればというところ…。

 

 個人的結論としては、結局著作権崩壊ルートを防ぐためにも

 (こちらの話はこちらに↓)

 

penginsengen.hatenablog.com

 

もうPCと同じように使用者帰属一括で良いのではと考えている。

結局使用者帰属ならば何も現状のPC利用と変わらなくなる。いまさらPCを使わないなどということはあり得ない。

 しかし、ここで問題は、コピーライトトロールだ。

 AIでありったけ生成しておいて、HPに公表しておく。

 でもって少しでも似たものが出た途端裁判するというものだ。

 依拠性は?とあるが訴えるだけであれば、HPにだしていた、見たに違いないと騒ぎ立てることが出来る。オリンピックのエンブレム騒動が参照になるだろう(取り下げたため結果は分からないが、アレこそ訴えるだけで効果ありの良い例だ)。

 和解が多い日本ならばなおさら、とりあえずお金を払って解決…ということも多く考えられますますこの問題は大きくなる。

 

 ではどうするべきか。

 

 

☆検討結果双方を満たすために、様々な先行事例を調査した。

 →詳細は後ろの方で示す。ここでは結果だけ。

☆調査の結果、著作権者とは別個に使用者がライセンスにより権利を保有する形態(テレビゲームのプレイ動画の事例)を発見した。また、サービス提供においてであるが関係者が複雑に関係する形態における事例(旅行契約)も発見した。その他にも著作権の集中管理方式や文化政策での補助金及び賞の授与に関する研究を発見し、これらを駆使してアイディアを考案した。

☆テレビゲームのプレイ動画に関して、プレーヤーには著作権は付与されないとされる(判例より)。しかし、例えば任天堂の場合、250以上のゲームタイトルについて第三者が作成したテレビゲームのプレイ動画など二次創作作品(実際は著作物性が極めて伺わし作品も含む)を公認して著作権侵害とはならないかたちをとっている。その他仕組み等々はまちまちであるが、原権利者(著作者)はあくまでも別個に存在し、二次著作物的なかたちで第三者が二次著作物の著作者類似の形態をとることが可能となっている事案が存在している。

 

 

☆そこで、AIの自動創作作品は二次著作物相当で原著作物を侵害しているという主張もされていることから、この考えを応用して、AIの使用者が二次著作物の著作者に類似する形態で権利を取得することが出来ないかを考察する。第一として、AIに学習される原著作物の著作者が存在するためこれとの橋渡しが必要であり、次に中間を取り持つAI開発者との関係も考えなくてはならない。またAI開発者にも様々な関係者が存在する。

☆この複雑な関係を適当に設計するためには、何らかの専門団体を形成することが適当と思われる。すなわち当該団体による権利の集中管理方式で、

①AIに学習される作品を提供する作者等は一定の対価を得て作品提供を行い、

②AI開発者は一定額を当該団体に支払う代わりに多種多様な作品を一括してAIの学習に使用することが出来(実際は学習済みデータセットも考えられる)

③AIの使用者は自身の創作的関与の有無にかかわらず、AIより作成された作品の権利が帰属する(厳格には創作性を付与しない限り二次著作物にも当たらないのだが、そこは契約により、二次著作物類似として使用者に帰属させる。無資力要件は課題だが、場合により債権者代位の応用スキームも可能と考えられる)。

このようなスキームである。

また、そこでは多数当事者との契約のため契約ひな形(約款)のようなものが必要であると考えられ、旅行契約を参考に標準約款を整備すると同時に、当該団体を業法による制御を行う。

 そして、文化領域を参考に当該団体には必要に応じてAI開発者への補助金制度あるいは賞(優れたAI開発者に報いる)を授与し、原資は行政が提供し、同時にこの団体の監視(契約約款等が適当であるかの監視含む)を行う。

 

 図解するとこう

アイディア

  というのが今考えているところ。

 勿論妥当性の根拠は無い・・・

 

 ※このブログはある人の研究途中について既発表資料を基にまとめて考察しています。

 

 捕捉

 

 捕捉1:著作権が無くとも問題はある場合がある例

著作権がなくとも誰が当該知的財産を所有するかで問題が発生する場合がある。

☆例えば商標権(ロゴ・マーク)には著作物である必要性はない。

※(平成6(ネ)第1470号 Asahiロゴマーク事件)ではロゴマークの著作物性を否定

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/816/013816_hanrei.pdf

 著作権と商標権は別判断であり、AIで作成したマークなども商標権の登録要件(自他識別力他)を満たしている場合は、登録が可能であると思われる。

→商標権の場合何者の商品・役務であるかが重視されることより、標章を作成したものが何者かを問う意義は薄い。

 その為、AIを用いて商標を作成することはあり得ると思われるが、その際の帰属が問題となり得る。なお、商標権を得るための標章作成においては一般的に多大な労力を用いて侵害調査を実施するが、東京オリンピックのエンブレム騒動※のように類似ではあるが商標は登録がなかった著作物であったとしても問題になることが多くなった。これはインターネット等々の発展により容易に盗作が可能となり、著作権侵害の依拠性要件についもインターネット上にあったということから、検索してそれを盗作した可能性があると主張されるためである。このことより、AIによる既存調査の徹底と、それらと類似しない標章作成というニーズは高まるものと思われる

※参考 https://president.jp/articles/-/16605

☆帰属問題次第でAIに関する政策が大きく変わりうる。AIに関しては極端な政策も主張されているが、これはAI生成物(含むデータ)を大企業が所有してしまって大きな独占が生ずると考えるか、あるいはAI生成物は全てパブリックなもので誰の所有物でもないと考えるかで大きく異なる

 

 捕捉2:何故AIは著作権を持てないのか?

著作権法の法解釈において重要な逐条解析である加戸(2021)では、「著作制度におけるアルファでありオメガでもある著作物の定義」(p.21)について「『思想又は感情を創作的に表現したもの』そういうものであって『文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』が著作物であります」(p.22)「それから思想又は感情というのは、社会通念上人間の思想又は感情を指します。したがって、ここでは動物の思想・感情というのは念頭においていない。(中略)思想・感情は人間固有のものであって、動物にはないという大前提というかドグマがあるからでございます」(p.22)としており、著作権法における一種のドグマ的なものとして人間のみが思想感情を有しているという大前提があると解説されている。また、「第二要件として、思想・感情を創作的に表現したものであること。「創作的に」ということでございます(中略)いくら努力をしたからといっても、そこで人間がクリエートしていなくてはいかんという意味で(略)」(pp.22-23)と人間による創作性が必要としている。

 

☆そこで、知的財産推進計画2017において著作権の基本的概念に沿って、人間による創作的関与(すなわち先の「人間がクリエート」)がなされずAIが自動生成したものを「AI創作物」として、これには著作権の付与は認められないという方針を提示している。なお、AIを用いた場合でも、人間の創作的関与がある場合はその創作的関与をした者に著作権が与えられるということも合せて提示されている。

☆以上のように、法的には一種のドグマとして、人間ににのみ思想や感情があるとしている。これは科学的には自由意志の問題も含めて、疑義は示されているところであるが、(だからこそ)ドグマとして、前提条件とされている。学者によっては特に刑法の文脈で人間の自由意志などについて法的仮設(誤字ではない)説といった、(事実と異なる可能性もあるが、法理論を構築するうえで)仮置きされたものという説明をされることもある。いずれにせよ、科学的にという文脈以外の観点でこの前提は置かれているといえる。

 

 捕捉3:AI生成物は二次著作物だとの主張はあるのか?

 ☆Aleksei Gudkov(2020)「Robot on the shoulders of humans」J World Intellect Prop. 2020;23:pp.759–776. によると人工知能システムが生み出す作品は、本質的にオリジナルではないことを結論している。また、AIによる生成物は二次著作物相当が妥当と結論し、「人工作品における先行する著者名または特定のデータソースの引用を義務化すること」を提案している。加えて、AI生成物に対して「人間が作成したオリジナル作品は適切な著作権保護を受けなければならないこと」「人工作品生成のためのデータソースとして人間の著作物を商業的に使用する場合には、著者に補償しなければならないこと」「人工作品は、人工的な性格を強調し、人工作品と人間のオリジナル作品とを区別する目的で、特別な標識または注釈によって示されなければならないこと。」等々様々な提案を行っている。(結局創作説と同じになる)。

☆一方「人工作品は、AIの助けを借りて人間が作った作品として、著作権で保護されるべきである。AIが少なくとも最低限のAIの創造性を発揮したり、科学の進歩や社会にとって有用な芸術を向上させたりするのであれば、AIシステムが単独で生成した作品も著作権で保護される可能性がある」という保留も行っており、知的財産推進計画と結果としてほぼ同等となっている。

☆現行の創作性を重視する考え方からは、やはり現時点でのAIはラーニングした元著作物への依存度が高く、全く別個の著作物ではなく二次著作物の作成という結論とならざる追えないという現実論もあるようである。

 

 捕捉4:著作権は強い方が良いのかどうか?

 強すぎても弱すぎても良くないというのが一般論。

 議論が多すぎるので省略

 

 捕捉5:何故ゲーム業界は、プレー動画をOKにしたのか?

 山口真一(2014)「ゲーム産業におけるインターネット上の著作権侵害と経済効果 ―ゲームプレイ動画とゲームソフト販売本数に関する実証分析―」総務省 情報通信政策レビュー pp.178-201による実証分析によると「ゲームプレイ動画の再生回数は、ゲームソフト販売本数に有意に正の影響を与えており、その大きさは、再生回数が 1%増えると販売本数が約 0.26%増加するというものだった。さらに、ジャンル別での推定では、ノベルゲームとレースゲームを除く他 5 つのジャンルで有意に正の影響を与えており、それら 2 つについても有意に負の影響は見られなかった。」とプレイヤーによるゲーム画像のプレイ動画について、販売に寄与していることを実証している。

 よってプレイ動画は宣伝の一角を担う可能性があり、ファンを訴えるわけにはいかないのでいっそのこと、(一部)公認とした。

 

 捕捉6:集中管理団体の管理は有効なのか?

 新井泰弘(2012)「民間機関による著作権保護-日本音楽著作権協会ゲーム理論的分析-」経済研究 VoI.63,No.1,pp.17-27は政府では無く民間団体による著作権保護をゲーム理論により分析したものである。結論は

著作権協会の社会厚生に与える影響は取締費用と作曲家のパフォーマンスの2つの要素に依存する。取り締まり費用の高低及び作曲家の能力の組合せにより、正の方向にも負の方向にも影響が発生することが示されている。

・全作曲家が著作権協会に参加する場合,著作権協会に参加する作曲家に楽曲使用料を決定させるよりも,現行のJASRACが行っているように著作権協会が統一価格を設定する方が社会的に望ましい。としている。

 なお、JASRACのHPは下記であり、当該団体が著作権の集中管理を行っている

 https://www.jasrac.or.jp/bunpai/present.html

 

 捕捉7:補助金という手法もあると思うけど、著作権を与えるのと補助金を与えるのでどう違うのか?

 Ruth Towse (2006) ‘COPYRIGHT AND ARTISTS: A VIEW FROM CULTURAL ECONOMICS’ JOURNAL OF ECONOMIC SURVEYS Vol. 20, No. 4 pp.567-585では、文化経済学を用いた著作権分析について包括的に調査を行っている。それによると、「著作権は、法定の保護を通じてインセンティブを与えることにより、芸術作品の供給にプラスの影響を与えると考えられているが、一方で、新たな作品を生み出すコストを上昇させ、その結果、供給を減少させる可能性もある。」としつつ「著作権の代わりに芸術作品を創作するインセンティブとして、芸術家に助成金や賞を与えるという政策」についても研究を行っているとする。そして、「ほとんどの先進国では、著作権と芸術への補助金、そして賞などが共存しており、通常は補完関係にある。」としているが、助成金や賞について、取引コストが高いことや、個人を支援することによるモラルハザードの問題から、文化団体を通じて資金を流すことを好む傾向があるとも分析している。

 著作権が文学作品の過剰生産を助長し(通常の過小生産の議論とは対照的に)、著作権の独占的な保護のために、そうでなければ不可能なほど質の低い作品が市場で生き残ることを可能にするという批判がある。

 しかし、ビジュアルアーティストに最低所得を与えるというオランダの補助金制度に関しても、公的な助成金の問題点は、公務員が助成金を管理する場合は、公的な国家芸術の概念が発展する危険性があり、アーティスト自身にその仕事が委ねられる場合は、縁故主義に陥る可能性がある、賞などでも同様と論じている。

 以上より、AI生成物に報奨金を与えるという解決策も妥当ではない。しかし、「文化団体を通じて資金を流す」という文化領域における手法は応用も可能と思われる。

 

 捕捉8:ゲームプレイ動画の著作権をもう少し詳しく

 ゲームのプレイ動画について:パックマン事件・東京地裁昭和59年9月28日判決によりコンピューター(テレビ)ゲームは「映画の著作物」と認められた。また平成14年4月25日最高裁判所第一小法廷https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52335よりプレイ動画は著作権侵害となる可能性が高いと解説されることが多い。しかし例えば下記

https://game.asahi.com/article/14330263

任天堂ガイドラインに従っていれば動画配信が原則的に許可されています。任天堂ガイドラインには『お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております』という一文があり、ユーザーのクリエイティビティと任天堂のゲームが融合することでさらに素晴らしい楽しみ方、表現を生み出したいという着眼点があるのが特徴です。ガイドラインを作っているゲームメーカーの多くは、基本的に許可を出していますが、ムービーシーンやエンディングシーンだけ切り抜いた投稿はダメなど許諾の範疇が異なります。ですので、配信をする前に必ずガイドラインを読まなくてはいけません」」とされる。他に水野佑(2017)も参考。その他インターネット上に解説サイトも多く存在している。https://it-bengosi.com/blog/doga-chosakuken/

 

 捕捉9:約款に関して

 (例えば旅行業業約款の場合)

 約款に関しては法規では無いものの旅行業法により観光庁長官の認可が必要となる標準旅行業約款が存在する(他にもそのようなスキームを持つ業態がある)。法律に比べて比較的現状に合せて変更が行いやすいものの、単なる契約ひな形以上の効力があると考えることが出来、本件でもこのようなAI業法のようなもの(当然こちらはAIガバナンスガイドラインhttps://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/2021070902_report.html 等々を取込んだEU人工知能法ほどではないにせよAI開発業者の業法というかたちの中で盛り込むことを考案したい)

 またサービス提供に極めて多くのものが介在するという点からも、旅行契約関係のスキームをAIに活用できないかという観点が本研究での結論部分(アイデア)のベースの1つとなっている。

 

 捕捉10:代位について

 AI生成物について二次著作物となれば、二次著作物の著作権は発生する。しかし、AIの学習内で原著著作がどれであるかわからなくなることや、そもそもAI生成物が新たな創作性を付与したとまで言い切れるもの(=二次著作物として認められうるもの)になり得るか不明である。

 それでは結局混乱するので、AI生成されたものはライセンスで一括権利付与としたいが第三者効は一般的に契約上の債権的権利では持ち得ない。

 しかし、無資力条件の有無について学説上争いがあるものの、債権者代位というかたちで、作家等そもそものAI生成物の素材となったものに付随していた著作権(実際は現在の著作権法上、著作物の享受を目的としない様態によりAIに学習させる場合は著作権は制限されるが、消えるわけではない)を最終的な使用者が代位するという方法論を契約の牽連性理論から導き出すことも可能と思われる。

 勿論、作家への補償が現在不要な状態であえて、補償をする意味が不明といえる欠点はあり、今後要検討だが、文化の発展に資することが著作権法の本質的意義であることを考えると、このスキームは意義があると考える。

 ※AIに著作物を使用する際、現行法では、様態により使用された著作物の著作権は制限される立法処置がとられており、原著作者には補償無しでAIの学習用データとして活用できることも多くなっている。

 

 その他

 AIはやはり多数当事者が関係する為、責任論では、田中(2021)等、共同責任+AI損害基金・保険の枠組み(AI制作者とAI利用者がお互いに拠出金を拠出。損害発生時にはどちらの責任であるかを問わずその基金より損害賠償)が提案されている。

→権利論においても、NHKのように、「皆様のAI」としてAI使用者(実際はPC設置を要件)から一定額を徴収する代わりに、AI生成物は一律パブリックなものとして、AI開発企業にはこの徴収額を分配するというような仕組みも考えられる可能性がある。

 権利帰属にこだわらない考え方も当然あり得る。

 

 以上

 文中に○○(○○年と)略したものも含めて主要な参考文献は下記

 

 

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20200527.pdf

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20170516.pdf

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20190621.pdf

https://chizai-portal.inpit.go.jp/madoguchi/nagano/news/2021_1.html

u https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/index.html

uhttps://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf

u加戸守行(2021)『著作権法逐条講義 7訂新版』(著作権情報センター

uAleksei Gudkov(2020)「Robot on the shoulders of humans」The Journal of World Intellectual Property Volume23, Issue5-6 November  pp. 759-776

uChristopher D.Stone(1972)「SHOULD TREES HAVE STANDING?-TOW ARD LEGAL RIGHTS FOR NATURAL OBJECTS」南カリフォルニアローレビューVol.45 pp.450~501。https://iseethics.files.wordpress.com/2013/02/stone-christopher-d-should-trees-have-standing.pdf

u  Kalin Hristov(2017)「Artificial Intelligence and the Copyright Dilemma」IDEA 57、3 PP.431-454 https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=2976428

u  Pamela Samuelson(1985)「Allocating Ownership Rights in Computer-Generated Works」47 U. Pitt. L. Rev. 1185 .https://scholarship.law.berkeley.edu/facpubs/1067/

u  Mark Perry・Thomas Margoni(2010)「From Music Tracks to Google Maps: Who Owns Computer-generated Works?」 Law Publications. Paper 27.https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1647584

u  大本康志(2017)「サルの自撮り写真をめぐる著作権法を中心とした法的諸問題‐サルとAIの比較-」土肥一史先生古稀記念論文集『知的財産法のモルゲンロート』(中央経済社)pp.387-398

u大谷卓史(2017)『情報倫理』(みすず書房

uRosa Maria Ballardini, Kan He & Teemu Roos (2018). AI‐generated content: Authorship and inventorship in the age of artificial https://www.cs.helsinki.fi/u/ttonteri/pub/aicontent2018.pdf

u Bridy, A. (2015). The evolution of authorship: Work made by code. Column J.L. & Arts, 39, 395.

 →シンポジウム記録は:Columbia Journal of Law & the Arts, Vol. 39, 2016 pp.395-401 Annemarie Bridy(上記と同名)

uRuth Towse (2006) ‘COPYRIGHT AND ARTISTS: A VIEW FROM CULTURAL ECONOMICS’ JOURNAL OF ECONOMIC SURVEYS Vol. 20, No. 4 pp.567-585

u Gervais, D. J. (2019). The machine as author. Iowa Law Review, 105, pp.19–35.

uRegulation laying down harmonised rules on artificial intelligence (Artificial Intelligence Act)

u藤田邦彦(2019)「ゲーム理論による海賊版業者の意思決定過程の分析とその対策に関する検討」文京学院大学総合研究所経営論集第 29 巻第 1 号 pp.75– 83

u田中 綾(2021)「自動運転車に関する交通事故に対する製造業者の民事責任制度の在り方」 法と経済学会 2021年度(19回)全国大会 発表資料

u鈴木豊(2021)「完全理解 ゲーム理論・契約理論 第2版」(勁草書房

u細江守紀編著(2020)「法と経済学の基礎と発展」(勁草書房

u柳川隆・高橋裕大内伸哉編(2014)「エコノリーガル・スタディーズのすすめ」(有斐閣

u生貝直人(2011)「情報社会と共同規制」(勁草書房

u水野佑(2017)「法のデザイン」(フィルムアート)

 

 その他、いろいろ

 プログなので省略で…

 勿論、自分の過去ブログも(笑)全部参考です(笑)