加賀山茂の憲法論

 民法学者 加賀山茂の憲法

 

 結構面白いものを見つけた。

 日記の中なので埋もれてしまいそうなので、書き写しておこうと思う

 

 こちらより

cyberlawschool.jp

 2022年1月23日(日) 雨

  • 昨日,日出町で開催する憲法学集会の講師一人が都合が悪くなったので,代役を引き受けてほしいと依頼を友人から受け,急遽,代役を受けることにしました

 にて主張されたことだ

  • 第1に,日本国憲法98条2項が拡大解釈されているので,制限を加えるべきこと,第2に,砂川判決以降の統治行為論の弊害を根絶するためにも,憲法9条は,そのままにして,以下のような修正条項の3箇条を第9条に追加することの重要性(矢部・戦争ができる国(2016)304-305頁)について解説しました。
  • 憲法第9条に関する追加・修正条項
    • 修正第1条自衛権
      • 国際連合による日本およびその周辺の平和と安全のための措置が効力を生じるまで,外国の侵略を自国の施政下の領域内において撃退するための最小限の軍事力と交戦権は保持する
    • 修正第2条(安保条約,日米地位協定等の失効)
      • 2025年以降,自国の領域内における外国軍基地,軍隊および施設は許可しない。この改正された憲法の規定に反する多国との取り決めはすべて破棄する。そのための憲法判断は最高裁判所が行うものとする。
    • 修正第3条非核三原則

 以上

 反応は

  • 憲法については,全く素人の私のスピーチでしたが,集まった人から好意的な質問が出て,無事に代役を務めることができたように思います。

 とのこと。

 

 これ、代役どころか、新説というか右派、左派の折衷説であり、合意可能な改正案ではないだろうか。

 

 現実的に自衛隊を軍隊ではないと強弁するのは限界がある一方、では、国内に強制力を一切持たないというわけにはいかない。警察力はいずれにせよ必要であり、軍事力と警察力の境界は曖昧である。

 加えて、現実的には交戦権的なもの(自律抵抗権とか、自主抵抗権とか言われると思われる)は発動されるだろう。パルチザンかもしれないが・・・。

 あるいは現行政府は即刻降伏して、自主抵抗組織とか、自衛隊は全軍アメリカに亡命して、アメリカ亡命臨時抵抗政府を結成とか、実際は憲法外への動きにより何らかの交戦運動はおこうるものと思われる(勿論、文字通り全く無抵抗降伏の可能性もゼロではないが、アメリカバックの現状でそれは無いと思われる。むしろ、アメリカ陣営から別陣営にそのままスライドするというのならあるだろうが・・・)

 

 となると、どう位置づけるかであるが、アメリカ式の修正条項は妙案だろう。また、

  • 国際連合による日本およびその周辺の平和と安全のための措置が効力を生じるまで,外国の侵略を自国の施政下の領域内において撃退するための最小限の軍事力と交戦権は保持する

 領域内限定がある為、拡大解釈の恐れはない。「国際連合による日本およびその周辺の平和と安全のための措置が効力を生じるまで」という限定もある。個人的には、領域内での警察力保持といった観点で、後段は、改善の余地があると思われる。例えば、「外国からの内政干渉に対して、領域内での対抗措置」という文言など、またサイバー攻撃やハイブリッド戦争も視野に入れた方が良いだろう。サイバー上で何を領域内とみなすかだが、警察能力として悪意あるサイバー空間での振る舞いには対抗できるよう、そういう文言を考えた方が良いだろう。

 前段は、国際連合を絶対視している点は問題があると思う。「しかるべき国際機関が」などとした方が良いだろう。勿論国連が消滅しても憲法を変えなくてすむようにと言う視点もある。

 

 2・3はかなりシビアな主張だが、自主防衛路線の場合ではこうなるだろう。右も反論しがたく、左もここは賛同するだろう

 防衛負担が大きくなりがちなので&アメリカがこれを許すとは思えないので、現実的には、「既存のものに加えて」等新たな基地は認めないや2025年ではなくもっと先にする等(そもそも改正年度に合わせる必要性が有、経過措置を考えると、年数指定ではなく、もう少し柔軟な規定の方が良いだろう)工夫は必要だ。また憲法にこれを書き込むのはどうかという点がある。また、「軍隊」あるが同盟国軍もNGだろうか。その辺は憲法判断で裁判所に任せる案なので、例えば上空通過はOKとか同盟国軍の一次駐留ならOK等々柔軟にするのかもしれない。そうするとまた空文化が心配ではあるが…。ただ、これぐらいの左派への配慮ある改正案は必要だろう。

 3,の原発は相当問題だが、稼働許可なので、既存のものは使えるだけ、核のゴミ処理関係はOK、原発で無いものならOKということだろうか。原発の定義問題もありうるので趣旨を徹底させるならば核エネルギーを利用した発電やウランを用いた発電、あるいはも少し広げて、事故時に甚大な被害が発生する可能性のある発電方法、といったかたちになるか。「自国の領域内の通過と原発の稼働」若干保留が必要と思われるが、この辺も左が納得しつつ、右が求める交戦権復活という点でバランスはとれているといえるだろう。

 ※自国の通過は、そもそも検知不能核兵器の定義問題と、領域問題がある。

 完全に領域・領海・領空とすれば良いのだが、修正1条との関係、サイバー空間(サイバー核攻撃もそのうちできるようになるだろう。原子炉を自爆させるプログラムを送りつけるとか、あるいはディープフェイクでの攪乱等々)等々考えるべき事が多数で出てくる。領域内という考えも、実はなかなか難しくなってきているといえる。

 

 とはいえ・・・

 

 総じて、左右双方に目配りした優れた憲法修正案であり、議論のたたき台としては優れていると思う。

 

 問題はこういうバランスをとっている修正案がちゃんと議論されるかという所だろうが・・・。