判例評釈遊び①  (平成30年(受)第1412号 発信者情報開示請求事件、令和2年7月21日 第三小法廷判決)

 ビジネスブログ、広告貼って稼ぐタイプでは一番NGな記事の方向性が定まらないものですが、自分の勉強として、最高裁判例を読むのを気まぐれでやってみたいと思います。

 注意:本件は弁護士でも何でも無い人間が自身の学習用に執筆しているのものであり、本件の情報の質に担保はありません。

 

 第一回目は

 平成30年(受)第1412号 発信者情報開示請求事件、令和2年7月21日 第三小法廷判決

 です。最高裁判所のページから↓で判決文をダウンロード可能です。

089597_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 いきなり発信者情報開示請求という、我々このようにインターネット上で(おそらくこのブログを読む人はほぼゼロと思いますが)、情報発信者には要注意情報です。

 早速まとめてゆきましょう

 これはリツイート事件とも呼ばれ、

 1,他人の写真を無断で(氏名を消して)ツイート

 2,それに対してその写真の著作権者(写真家)が氏名表示権を侵害されたとして、ツイッター社にそのようなツイートをした人間の情報開示を求めたものです。

 3,開示対象はそのような写真から氏名が削除された状態でのツイートをリツイートしたものも含まれる。

 リツイートするだけで訴えられる、と話題になった判決ですね。

 

 正確に言えば、サムネイル状態ではツイッター社の仕様により名前が表示できるところが切れてしまい、元ファイルをクリックすれば、氏名表示はされているのですが、見えるところにはないというものです。

 

 わかりやすくいうと、氏名表示が見える状態になっていなかったのが問題というわけです。

 

 これの著作権上の争点は2つ(後ではプロバイダ責任制限法の話も出ますがまず著作権だけで)

 1つ目は、「本件各リツイート者は,本件各リツイートによって,著作権侵害
となる著作物の利用をしていないから,著作権法19条1項の「著作物の公衆への
提供若しくは提示」をしていない」という、要するにリツイートした者は単に右から左に情報を流しただけで著作物利用をしていない=著作権侵害とは言いがたいのではないか?というもの

 2つ目は、「本件各ウェブページを閲覧するユーザー
は,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部
分がある本件元画像を見ることができることから,本件各リツイート者は,本件写
真につき「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(同条2
項)しているといえるのに,本件各リツイートによる本件氏名表示権の侵害を認め
た原審の判断には著作権法の解釈適用の誤りがある」というもので、要するに別に見ようと思えば氏名を確認できるのだから、著作者名は表示されている。なので問題ないという主張。

 

 1つ目に関して裁判所は「同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である」とそもそも著作物を利用しているかどうかでは無く、公衆に著作物を示すこと、それが著作権法にいう「著作物の公衆への提供若しくは提示」だとしています。

 要するに公衆に見えるようにしていれば著作物を使っているかどうかでは無く、見ることができるというそのことを持って判断するということですね。

 

 2つ目に関しては、下線と違うところを引っ張りますが、「本件各表示画像が表示さ
れているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというに
とどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリック
しない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表
示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。」と確かにクリックすれば見ることはできるが、クリック先は別のウェブページであり、結局そこに飛ばないといけないので、元のところでは表示しているとはいえない。また、通常ユーザーがクリックするということも一般的とは言いがたいとしています。

 

 著作権の方について評論ぽいもの:うーん。難しいですね。1つ目については、何を持って使用かというのは非常に難しく、「著作物の利用によることを要しないと解する」事は妥当と思われますし、そうしないと判断できないことが多いと思いますので、公衆が見ることができる状況(これも実は難しいところはあるのですが…)になっていればというのは良いと思います。

 問題は2つ目ですね。仮に、別サイトでも誰もがそのサイトにも一緒に行くようなことが通常の場合どうするかということです。

 本で考えるとわかりやすいですね。引用がページをまたいで、次のページに引用情報が載ることがある。勿論普通本は次のページも読みますので、別ページに氏名が表示されているけれどもこのページにはない!=著作権侵害、とは言いません。とはいえ、最後に索引ですとか、「参考文献」などと書きますがそもそもそこ読む人どれぐらいいますか?という問題です。もっとも本の場合は、公正な慣習としてそのあたりは認められていますので、巻末に参考文献や引用文献がまとめてあってもまず著作権侵害の問題は起こらない。ということですが、このリツイート事件と対比すると面白いと思います。仮にリンク先も読むのが一般であったり、このような分割表示が一般的(本と同じ)であった場合どうなるのでしょうか。

 

 やはりインターネットはいわゆる「公正な慣習」そのものが確立されておらず、どのような引用であれば許されるか、ルール整備が必要、もといいフエアユース的な、ある要件を満たせばOKという整理が必要ではないかと考えます。

 

 次に、プロバイダ責任制限法関係について

 

 争点は3つです。

 1つ目は、「本件各リツイート者による本件リンク画像表示データの送信については,当該データの流通それ自体によって被上告人の権利が侵害されるものではないから,プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたという要件を満たさない」のでは?というものです。難しい言い方ですが、リツイート等のデータの流通でもって著作権者の利害が侵害されるわけではない、という争点です。

 2つ目は、「本件各リツイート者は,被上告人の権利を直接侵害する情報である画像データについては,何ら特定電気通信設備の記録媒体への記録を行っていないから,同項の「侵害情報の発信者」の要件に該当しない」のでは?というものです。これも難し言い方ですが、リツイートしても記録媒体に記録してないですよね?というものです。何かに記録してそこから侵害情報を発信するのが「侵害情報の発信者」のはずなので、右から左に流しているだけの人は侵害情報を発信していないのでは?というものです。

 

 3つ目は「本件各リツイートによる本件氏名表示権の侵害について,上記の二つの要件が同時に充足されることはないのに,これらが充足されるとした原審の判断にはプロバイダ責任制限法の解釈適用の誤りがあるというものである。」というものです。これはデータ流通+侵害情報発信両方が満たされることはないはずなので、原審判断はおかしいのでは?というものです。

 

 それに対しての裁判所の結論は

 「本件各リツイート者は,その主観的な認識いかんにかかわらず,本件各リツイートを行うことによって,前記第1の2(5)のような本件元画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係る本件リンク画像表示データを,特定電気通信設備である本件各ウェブページに係るサーバーの記録媒体に記録してユーザーの端末に送信し,これにより,リンク先である本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから同端末に本件元画像のデータを送信させた上,同端末において上記指定に従って本件各表示画像をトリミングされた形で表示させ,本件氏名表示部分が表示されない状態をもたらし,本件氏名表示権を侵害したものである。そうすると,上記のように行われた本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしているものというべきであって,本件においては,本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ,本件各リツイート者は,「侵害情報」である本
件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということが
できる。」としています。

 分解してゆきましょう

 

 まず、①「各リツイート者は,その主観的な認識いかんにかかわらず」とあるように主観的要件を問わないとしています。まあ、リツイート時に何も考えていないことのふぉうが普通な気がしますのでこれはわかりますが、ツイッター使う人間としては怖いですね。悪意要件(知っていた)があっても良い気がしますし,せめて善意無過失(そのツイッター著作権侵害であることを知らなかったし、そのことを知るすべもなかった)程度はやむ得ないというものがあっても良い気がします。善意有過失(知らなかったが知らなかったことに過失あり)てインターネット上でどう見るかという難しい話もあると思いますが(検索すれば探せるし、著作権違法「そう」かどうか程度はわかるのではないかと)。

 それで②、①のように何考えていたかはともかく、仕組み的に氏名表示がされないかたちで表示されるリツイートを行っていることに変わりは無い。

 ③「そうすると,上記のように行われた本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしているものというべき」ということでリツイートでも結局氏名表示がなされていない画像データを送信していることに変わりは無い。

 ④となると「本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ」ということで、認識ともかく結局実質的にリツイートしている人も権利侵害を通常に行っているものと全く変わりはない。

 ⑤「本件各リツイート者は,「侵害情報」である本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる。」

 ということで、リツイートといっても、侵害情報の発信と記録媒体への記録といえるという結論です。

 

 プロバイダ責任制限法の方について評論ぽいもの:一言で言えばリツイートだろうと、侵害情報の発信には変わりないというのが結論だと思います。

 結局リツイートも情報発信の一つであり、元のコンテンツが著作権侵害かどうか何も考えずにリツイートしましたは通らないということですね。

 しかし、これは補足意見にもありますが、少々利用者にとって不便だと思います。玉石混交が前提とはいえ、メモ代わりにリツイートを使う使い方もある(私もそうしている)。全部著作権侵害かどうかを見極めるというのは難しいでしょうか。勿論ググれ!という意見もありますが、このようにそもそもサムネイルでは氏名が見えなくなっている程度では、氏名表示権を知っていても、クリックすれば見ることができるのでOK判断をすることがあり得るでしょう。

 そう考えると、結局ツイッター社で責任をとるというか、著作権侵害コンテンツ(後、難しいですが誹謗中傷)を一定限フィルタリングするか、せめてツイート及びリツイート時にチェックリストを表示さえて、それにチェックさせるなどの処置が必要だと思います。利便性低下しますし、それは自由なインターネットという概念からは外れますので難しいでしょうか・・・。

 

 難しい判例でした。

 

 

 関係の無い感想:最高裁判決文、かなり読みやすくなってますね。争点と判決がわかりやすくまとまっており、こんなに読みやすかったけ?というぐらいまとまっています。これも開かれた司法ということで、わかりやすいようにしていただいているのでしょうか。今後も上手い情報発信をお願いします

 (一次ソースがわかりやすいのは本当に助かります)。